今はこういうささやかだが人の温もりを感じさせる映画がとても愛おしい。
カモン カモン

STORY(Yahoo映画より)
 ニューヨークでラジオジャーナリストをしているジョニー(ホアキン・フェニックス)は、ロサンゼルスに住む妹に息子のジェシーの面倒を見てほしいと頼まれる。9歳のジェシーはジョニーが独身でいる理由や自分の父親の病気のことなどを遠慮なく尋ね、ジョニーを困惑させるが、二人は次第に仲良くなる。そして、ジョニーは仕事のために戻ることになったニューヨークへジェシーを連れて行くことにする。

感想
 前回の「ベルファスト」と同じ白黒映画だが、こちらの作品は、中年独身男とその甥の束の間の心の交流を描いたとてもこじんまりとした映画だった。ただ、この小品が思っていた以上に私の心にじんわりと沁み込んできたのだ。それはきっとロシアのウクライナへの軍事侵攻という残酷な現実に対する反動なのだろうと思っている。一方的に仕掛けられ圧倒的な暴力によって多くの罪なき人が犠牲になるという、人間の最も愚かで醜い所業を毎日のように見せつけられていると、人が人を慈しむという極めて当たり前のことを目にするだけで、その温かさが心に沁み、人間に対する絶望的な気持ちが少しだけ和らぎ、人の善の部分を信じたいという気持ちになるのである。カモンカモン
 映画は、母親の世話などを巡って疎遠となっていた妹から甥を預かるように頼まれた男が何週間かを甥と一緒に過ごすうちに、最初はぎこちない関係だった2人が少しずつ距離を縮めていき、やがて互いに信頼しあうようになるまでを繊細に描いていた。この映画では、その間の人の心根の優しさが、観ているだけですっと心に入ってきたのだが、それは監督のマイク・ミルズの創り出した話が物語のダイナミズムとは無縁のごくありふれた、だからこそリアリティがあり、共感しやすいものだったことと、それをどこか懐かしさを感じさせるモノクロの映像を使って無理なく描いていたからだろう。
 それに加えて、この映画をさらに魅力的な作品に仕立てていたものとして、次の2つが挙げられる。
 1つはメインテーマ曲として使われていたドビュッシーの「月の光」。ドビュッシーは、数あるクラッシックの作曲家の中でも個人的に最も好きな人なのだが、その音楽は聴く者の感情を静かに波立たせながら強い印象を与える繊細で抒情的な旋律に特徴がある。中でも「月の光」は、聴いたことのない人のいない、最もポピュラーな代表作だが、聴く者の心に響くこの曲が白黒の穏やかな映像と相俟って、ストーリーで強く感情を揺さぶろうとするところのない朴訥なこの作品にセンシティブな色付けを施していたのである。
カモンカモン②
 もう1つは、主役を演じたホアキン・フェニックス。
 私には、あまりにも早く亡くなってしまった青春時代のスター リバー・フェニックスの弟という印象の方が強い役者だが、濃い顔を生かした癖のある役柄で注目を浴びるようになり、特に世間から絶賛され、アカデミー主演男優賞も受賞した「ジョーカー」で、アメリカだけでなく、日本を始めとする多くの国で一目置かれる存在なった人である。そのホアキン・フェニックスが持ち前の灰汁の強さを封印し、自然体の演技でごく普通の中年男を演じ、なかなか良い味を出していたのだ。元々強い個性を持っているため、存在感は抜群なのだが、この作品では、必要以上に個性を強く出さないように細心の注意を払いながら演じることによって、観る者が抵抗感なく映画に入り込めるよう工夫していたと思う。
 それにしても、今のような厳しい時代には、普通の人の人間らしい感情をじっくりと見つめた映画に強く心を惹かれる。この作品もそうだが、この後に観た「いつも2人で」や「ツユクサ」もそんな映画だった。現実が残酷で厳しいものだからこそ、映画に人を信じられる善意のようなものを求めたくなるのだろう。
 

 令和4年4月22日(金) イオンシネマ 80点

🌟 
のんちゃんに関する小さな部屋 (日本映画専門チャンネルで「私の恋人」を観ました。②)
 再演舞台「私の恋人 beyond」の初日が約2週間後に迫ってきました。そこで、今回もまた先日日本映画専門チャンネルで放送された2019年版の「私の恋人」を観て感じたことをつらつらと書いていきます。
 今回は、歌について。
 舞台「私の恋人」は、完全なミュージカルではありませんでしたが、所々に演者の歌
(と言っても確か小日向さんは歌っていませんでしたが)ちょっとしたパフォーマンスが挟まれた、音楽劇的な色合いある舞台だったと思います。のんちゃんも何曲か歌っていて、完全に音程が決まりきっていなかったりあとほんの少し声量が欲しいと思うところもありましたが、全体的にはなかなか良かったと思います。ベテランの渡辺えりさんや4人のパフォーマーの方に比べれば、技術的にはまだまだ未熟なのかもしれませんが、のんちゃんの柔らかい声質が歌自体の持つ魅力と重なり、何とも言えない心地良い味わいを醸し出していたのです。拙い部分はあるけれど、その拙さも含めて人の心の奥にまで届く歌唱とでも言いましょうか・・・。
私の恋人
 私がそんな のんちゃんの歌の魅力を意識するようになったのは、
LINEのCMに合わせてリリースされたキリンジの「エイリアンのカバー聴いた時からです。あの歌は、生き難い世の中で、自分達のことを「まるでエイリアンのようだ」と思いながら、肩を寄せ合い、互いへの愛を確認する男女の姿を歌った楽曲でしたが、その哀切な詩とメロディーが のんちゃんの声質や纏う雰囲気に合っていたため、特別に上手いわけではありませんでしたが、その辿々しい歌声からこの楽曲の魂とも言うべき「人を愛することの切なさ」が確かに伝わってきたのです。私は、本家本元のキリンジの「エイリアンズ」も、杏さんが歌ったもの(これもなかなか味わいがあります)も聴いたことがありますが、1番心を打たれたのは、のんちゃんの「エイリアンズ」です。多分贔屓目もあるのだと思いますが、それを抜きにしても のんちゃんの歌唱には、人の琴線に触れる何かがあると思っています。
エイリアンズ
 のんちゃんがその後歌った歌の中では、「タイムマシンにお願い」も良かったですが、好きだったのは「I LIKE YOU」。のんちゃんには、こういう人の優しさや温かさが滲み出る楽曲が合っているのではないかと思っています。中でも個人的に1番のお気に入りだったのが、これもLINECM関係の歌 フジファブリックの楽曲「若者のすべて」です。私は、この歌を2018年の暮れに横浜赤レンガ倉庫で行われた「毎日がクリスマス」ライブの中で聴いたのですが、この歌は、その後ほとんど歌われていないようなので、この時に聴くことができて本当にラッキーでした。のんちゃんの伸びやかで柔らかい歌声が青春の名残りの一瞬の光のようなこの歌の魅力を本家とはまた違った感じで出していて、強く心惹かれたことを覚えています。
若者のすべて
 私は、のんゃんの生ライブを何回か聴きに行ったことがありますが、
1番良かったのは「若者のすべて」を聴いた横浜赤レンガ倉庫の時のライブです。のんちゃんの楽曲には、パンクロック調の曲が多いため、「聴かせること」を強く意識しないと勢いが先行してしまい、ほとんど歌声が聞こえないこともあるのですが、赤レンガ倉庫の時は、会場がライブハウスではなく、しかも椅子席だったこともあり、じっくりと楽曲そのものを楽しむことができたため、とても満足することができたのです。
 のんちゃんは、映画「星屑の町」でも歌声を披露していますが、あそこで歌われた歌は、どれも良かったです。権利関係があるため難しいとは思いますが、あの映画の中で歌った歌をライブで披露できれば、観客は必ず喜ぶし、ライブも盛りあがると思うのですが、駄目でしょうか?
星屑の町
 さて、のんちゃんは、3年前の「私の恋人」以降も継続して歌を歌っており、そういう意味ではかなり場数を踏んできています。それが今度の「私の恋人 beyond」の中の楽曲にどう生かされているのか。楽しみに待ちたいと思います。(と言っても、舞台を観劇できればの話ですが・・・)


※ 赤ポチさんは、私が以前ヤプログでブログを始めた頃(映画「ホットロード」公開の少
 し
前)からの のん友で、一貫してのんちゃん(旧芸名は本名の能年玲奈さん)のことを真摯
 に応援
してくれている誠実な方です。こちらがヤプログ閉鎖後の赤ポチさんのしいブロ
 グドンキです。のんちゃんのファンの方は是非訪問してみて下さい。